2011年2月 3日

谷いくこ句集『ウルトラマリン』

ウルトラマリン.jpg

 句集名は、

  群青色(ウルトラマリン)の絵具柩に日雷

の一句による。日雷は晴天の神鳴りである。雨を降らせはしない。それだけに限りない悲しみに透明感がもたらされているようにも感じられる。「最愛の夫を失った時の句群は、いくこさんの絶唱である」と辻桃子は序文に記しているが、まさにその通りだと思う。さらに、この句集には、表紙絵ばかりでなく、夫・谷昇の挿画が各章を飾っている。

句作品のみならず、句集一本が夫に捧げられていると言ってもいい。その絵のことごとくは青を基調としていて、絵には門外漢の私だが、〈谷昇の青〉と名付けても納得できる色だと思われる。「ウルトラマリン」の書名もそれを見事に象徴している。

  なきがらと川の字に寝て明易し

  一抜けたとばかり逝きし沙羅の花

  大残暑佛の水の沸いてけり

  なづな粥佛の椀に溢れけり

  新盆や遺影の笑みに悪たれて

  猫のほか誰も居なくて春の暮

  早や駆けて来よふんばれる瓜の馬

集中には、文房具も扱われる老舗書店主としての仕事上の句もある。

  初商ひ六拾壱円萬札で

 私も現在の仕事に着くまで、書店員も文具店員もしていたので、よく分る。たぶん、著者の接客態度はにこやかに、かつ、澱みなく、「ありがとうございました」と笑顔で応対されたに違いない。私などは、定年近い年齢になってからは、なんとか挨拶できるようになったが、若い時分には、なんで萬札?と、思わずムッとして応対するような店員失格のダメ社員だった・・。

もっとも、百円以下の買い物でもクレジットカードでというお客さんもいた。

いきなりで恐縮だが、個人的な思い出としては、「ウルトラマリン」という書名に、私の若かりし頃、逸見猶吉詩集に「報告(ウルトラマリン第一)」と題する詩があり、その詩に衝撃を受けたことを思い出し、この句集にも興味が湧いたのだった。その詩の冒頭部分は、

 ソノ時オレハ歩イテヰタ ソノ時

 外套ハ枝二吊ラレテアツタカ 白樺ノヂツ二白イ

 ソレダケガケワシイ 冬ノマン中デ 野ツ原デ

 ソレガ如何シタ ソレデ如何シタトオレハ吠エタ

  〈血ヲナガス北方 ココイラ グングン 密度ノ深クナル

    北方 ドコカラモ離レテ 荒涼タル ウルトラマリンノ底ノ方へ――〉

であった。「ウルトラマリンノ底ノ方へ」という響きがいつまでも体に残ったのである。

ともあれ、個人的な思い出は別にして、谷いくこ句集『ウルトラマリン』は、家族、結社の仲間、師に恵まれて幸運の色を鮮やかに帯びている。

  謡初め父在れば聞く四海波 

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