2011年3月 4日

立春? 河津あきら『虜囚』・・・

立春とは名ばかり、全く真冬の気温である。

いまだ寒中といった具合だ。

「寒泉に一杓を置き一戸あり」と詠んだのは木村蕪城であるが、その蕪城に連なる「夏爐」(主宰・古田紀一)に拠る河津あきらは、〈寒柝〉の俳人と名付けてもいいような作品を生み出している。それは、河津あきらの節目、節目に登場すると考えてよいのではなかろうか。その気息は凛々しい。例えば、巻頭に据えられた句、

  寒柝の一戸を覚まし又闇に

寒中の夜回り、拍子木の響が、山中の一戸に燈しを灯させたのでもあろうか、火の用心の掛け声に安心して、再び、眠りについたのだろう、燈しが消えて、あたりは又、元の闇に包まれる。そうした情景もさることながら、句に宿っているのは作者の凛とした気息である。

  寒柝や深夜を灯す喪の一戸       (落鮎の章・平成7年以前)

  寒柝にうごめく真夜の厩牛        (小鳥罠の章・平成12年)

  寒柝に覚めて咳く深庇           (蒼鷹の章・平成17年)

最初の「深夜を灯す」の句は、前書に「平成六年四月『夏爐』入り」とある。従って「一戸」は蕪城の寒泉に一戸の句と呼応しているに違いない。蕪城は昭和40年から亡くなる平成16年まで「夏爐」を主宰した。忌日は昨日、3月3日である。

書名『虜囚』は、大正13年生まれ、今年で満87歳の著者の年代を考えれば、終生の句のテーマと成リ得るものであろう。

勝って来るぞと勇ましく、誓って故郷でたからは・・・「露営の歌」はいまだに、胸中深く刻まれているにちがいない。

  今に見る露営の夢や寒玉子

  木犀や戦旅の果に嗅ぎし香ぞ

  霾や黄河の哨に立ちし日よ

  書架に古る「わだつみのこゑ」春寒し

  会者定離戦友名簿さらしけり

  梵鐘は山に帰らず敗戦忌

  夏風邪や覚めては遠し虜囚の日

  虜囚よく耐へしと思ふ天の川

思えばいまは、親しい多くの人を見送られてもいる。

  何も彼も遠し晩夏の晒し舟

ひたすら、日々の平安と著者のご自愛、ご健吟を祈るばかりである。

 

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