2011年4月 5日

中山幸枝句集『龍の玉』・・

 

龍の玉

 

句集名は集中の一句、「冬の章」に収められた、

  中空にすこし風あり龍の玉          幸枝

からである。上句「中空にすこし風あり」は、読み切るにはなかなか難しいところを含んでいる措辞、フレーズではなかろうか。「中空に」を空そのものの中空だと読んでも、そこに、心の動きが投影されているように思われるからだ。どうしても、少し落ち着かない心、気持が伴う。それは、中七「すこし風あり」が重ねられて、読者に引き出させてくる感慨だからであるからかも知れない。それら一句全体のイメージを座五「龍の玉」が支えている。青い実は冬青空のもとでも濃く輝いている。

 著者(なかやま・さちえ)は、昭和31年、福岡県生まれだから、俳句の世界では、まだ若く、これからを嘱望される世代に属している。師は伊藤通明(句集題字も)。著者の「あとがき」には、「伊藤主宰の言葉『故郷や父母を詠む姿勢は常に大切にまた謙虚でなければいけない』をいつも心して作品に臨むようになりました」と述べている。

人は年齢を重ねれば重ねるほど、母や父を思う心、恋う心は深くなってくる。青少年時代のそれとは少し趣を変えて来るようである。句集『龍の玉』にも父母を詠んだ佳句が多くある。

  春の服母のかたちに裁断す

  母とすぐわかる鍬音花なづな

  野良にゐる母が好きなり桃の花

  うぐひすや母の煮炊きの小さき鍋

  母の日の一日母のそばにいし

  母のみの家となりけり百日紅

  盆踊母の後ろに付きにけり

  母の畑手伝つてゐる盆休み

  父に不満残りし母の門火焚く

  抜け道を母に教はる十二月

  柿右衛門に濁らぬ母の生姜湯

  日向ぼこ母が抜ければちりぢりに

  母の手をしみじみ見たり春隣

  蛍見に来よ泊まりにも来よと父

  籠枕父は眉より老いてきし

  桃葉湯担ひ瘤ある父の肩

  蚊帳吊りて生家に伯父も父もなし

  今生の温みまだある父や冬

  働いて来し父納棺する師走

  蝋梅薫る父の焼かれてゐるあひだ

  父の死後少し太りて鷹の空

また、夫を詠んだ、

  病床の夫とストロベリーアイス

  夫の声いつもしづかや星迎え

  銃保管検査に行く夫猟期前

いずれの句にも、家族の精神的な至福の時間が感じられる。

最後に、著者の眼のありどころに共感した句のいくつかを上げさせていただこう。

  勝ち鶏の方に傷みのひどかりし

  水中の魚も蛍火を見てをらむ

  いい人になるまじ鬼の子を飼うて

 

上野公園桜

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