2011年7月15日

河野薫『あざみ日和』・・・

あざみ日和

 句集名『あざみ日和』は、

  雅也忌もあざみ日和と南畦が      薫

の句から。前書に「平川雅也同人会長が逝かれて早や一年 二句」とあり、「聞きたしやあの雅也節昭和の日」の句が前にある。

 語り口か、披講の際の名調子かいずれにしても雅也氏の風貌とともに思い出されることばかりだろう。忌日の昭和の日とともに、ともに歩んだ昭和という時代相までも思い起こさせるから不思議である。句友の連中は晴れ男たちの集まりだから、ほぼ晴れるのだ。それを名付けて「あざみ日和」と「あざみ」という結社名とともに誇りにもしている様子が伺える。

 次に来る句が、

  夏来る三鬼おそれし乳房かな

 当然ながら三鬼の「おそるべき君等の乳房夏来る」に想を得て挨拶している句だ。

さらに、憲吉の「掌にあれば乳房胡桃(くるみ)のごと痛し」の影も匂う。

 あるいはまた、詞書「伊丹三樹彦先生より手紙あり、『楠本憲吉の〈汝が胸の谷間の汗(傍点あり)や巴里祭〉の句の誤植事件(汗→汁)は事実なり」と、とあり次の句が掲げられている。

  憲吉師三樹彦翁居る巴里祭   

 憲吉と三樹彦の縁は深い。昭和18年、憲吉が学徒兵として入隊し、伊丹三樹彦を識ったことが俳人への一歩だった。菱山修三は、憲吉の句を評して「彼の詩句は、その癒えるともない傷口から滴り落ちた血にほかならぬ。ここにはサタイアの雨を浴び、アイロニイの風に吹

かれながら、ひとすぢの道を行く彼がゐる」と憲吉第一句集『隠花植物』の序に記した。   

 師・楠本憲吉を詠んだ句も多い。「昭和六十三年十二月十七日、楠本憲吉先生急逝、祐天寺に眠る 三句」の中から、

  酌みし日よ墓石も痩身憲吉忌

 さらに、

  遠周(えんしゅう)と楠憲(くすけん)の秘話沈黙忌

 「楠本憲吉師は、遠藤周作と席も隣同士の同級生とか」、の詞書がある。次の句も前書があるが「十二月十七日、楠本憲吉師の忌また来る 四句 /『野の会』創刊号の師の一句〈天にオリオン地には我等の靴音のみ〉」。

  オリオンへ靴音遠し憲吉忌

  賛美歌のいま背後よりオリオン忌

  槿花一日(きんかいちじつ)この世変はらぬ憲吉忌

  世はすべて加減乗除や憲吉忌

 その他、

  師との距離また一つ詰めオリオン忌

 憲吉といえば、ずいぶん世話になった俳人も多いと聞く。句会の会場として「灘萬」を句会場に貸してくれたとか、さまざまな伝説がある。小生の世代などは、確か文春?『俳句入門』とか、なんといっても今は無き社会思想社の教養文庫『戦後の俳句』は格好のテキストで何度も読み返した記憶がある(山本健吉著『現代俳句』よりも親しんだ)。俳恩厚き俳人の一人だ。

 「あとがき」によると十二月十七日は奇縁の日で、「初孫の結希(ゆき)を授かり」「楠本憲吉先生のご逝去」「母の多希女のくも膜下手術・入院、という三大事が、いずれも十二月十七日」だと記してある。

  以下、小生の好きな句をいくつか上げさせていただきたい。

  天空より銀杏落葉といふ密書

  亡父と同じ道をあゆむか木枯と

  花あざみ戀句の艶へ多希女の歩

  あの世婚熟年離婚四月馬鹿

  見ておくれ来ないでおくれと螢火が

  貫くはわが道抒情南畦忌

  虚子忌来る追つかけ和子英いづこ

  開戦忌今も何処でもある奇襲

  痩身銀髪「俳鬼(はいき)と思ふ憲吉忌

 句集帯には村上護が「父南畦、母多希女の声を耳にしながら、独自の抒情俳句を目指す。『あざみ』新主宰として満を持しての句集である。期待は大きくまさに『あざみ日和』だ」と寄せている。

 思い起こせば、35年前、『現代俳句の新鋭』全4巻の第一巻に、河野薫は収載されている。窪田般彌の解説には短いながら、加藤郁乎を例にあげて「河野薫は御両親が俳人、(中略)私の友人加藤郁乎も俳句一家の人間だった。加藤は俳句を壊しながら、俳句の本堂に戻っていった。私はなぜか加藤を回想しながら河野氏の句を読んでいた」と記して、

  あぢさゐも半円救の核家族

  中年近し余白の厚さ河豚の骨

  など5句を挙げている。河野薫まさに不惑を迎える直前の句行であろう。小生はといえば、すっかり忘れていたが、次の句にチェックの印がついていた。

  8・15いつもの歯痛持ち歩く

  マスクはずす潜水夫の息をして

  獣臭充つ園家族といふ恐怖

  春愁の花瓶に詰める過保護の詩

 

三内丸遺跡vol.1

 因みに句碑の写真は十二湖(青池)近く「あざみ」六十周年(平成16年)の親子句碑で二年ほど前、小生が文學の森に入社する前に、旅先で、偶然写真に収めたもの。句碑建立委員会委員長に新谷ひろしの名があった。

 句碑の句は、

 どの径も湖へさだかに森も秋    南畦

 秋風裡樹根みちびく湖の霊     多希女

 森は春神の息なる湖の風      薫

三内丸遺跡vol.2

三内丸遺跡vol.3

三内丸遺跡vol.4

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