2011年11月 2日

IKAPOΣ(イカロス)ブランドの力・・・

書肆山田

 贈られてきた『書肆山田の本と書肆山田』(設計・装幀・造本は菊池信義)に、池澤夏樹は次のように記している。「どこの国でも詩の出版社は小さい。小さいところが一国の詩の動向を左右するのだから経営者の姿勢は大事だ。ギリシャのIKAPOΣ(イカロス)と日本の書肆山田の二つをぼくは高く評価する。よき詩人を選んで、美しい本を作り、それを長きに亘って続けることで豊かな詩の稔りを実現してきた」。

 書肆山田が出来てから40年経つらしい。創業者の山田耕一の後を継いだのが、大泉史世と鈴木一民である。大泉史世は亞令の名で書肆山田の本のほとんどの装丁もしてきた。厳しくも本作りに賭ける情熱には人後に落ちない。

出版社には出版社の力がある。言ってしまえば、その出版社から出した本なら、最低00部は売れるというのがある。それが版元のブランド力なのであろう。君も句集を出せ、といわれて『風の銀漢』を出してもらった。思えば、第一句集『秋(トキ)ノ詩(ウタ)』を含めて、数は少ないが、小生の句集はすべて鈴木一民が出してくれた。そして、10年以上前から、次の句集を出せと会うたびに言われている。しかし、現在のような仕事を経験してみると、句集が店頭で売れて採算が取れるなどとは、簡単にいくものではない。

 そうしたことが分って来ると、今度句集を出すときは、00部くらいは買い取らなければ申し訳ない、という気になってくる。いや、書肆山田から出すのだから、珠玉の句がせめていくつかはなければならない。そうしないと書肆山田の名を傷つけてしまう・・。というわけで駄句を生み出し続けている小生には到底その望みを実現できる力量がないと尻込みする。まあ、それだけの仁義は感じてはいる。

 そうした書肆山田に入沢康夫は次のようにエールを送っている。「山田氏のあとを引き継いだ鈴木一民・大泉史世のお二人は、実によく頑張って、立派な業績をここまで重ねて来られた。書店の詩書の棚に並んでいても、書肆山田の本は一目で見分けられる。独特の気品ある内容と本造りの故だ。創業半世紀に向けて益々の発展を祈りたい」と。

横浜トリエンナーレvol.2

 ところで、小社の瀟洒な文庫本句集を一冊紹介したい。

尾崎人魚句集『ゴリラの背中』である。

句集名は、

    青ざめしゴリラの背中油照り     人魚

の句から。河内静魚はその序で、「作品の新鮮さ、大胆さに私は新しい才能の誕生を確信している。これからの人魚俳句がどう進化し、あるいは深化していくか」と言挙げしている。句集の扉の挿画は長塩道子、どうやら人魚(本名道子)は絵も描くらしい。巻頭の句は、

   花文字に始まるページ春立つ日    

 「ハ」の頭韻の連なりと、「ィ」音の末尾音の連なりは、この句に軽快さと詩情を創りだすことに成功していよう。韻で句のリズムを整える句としては、

   秋空の青きところへ梯子挿す

の「ア音」の頭韻もなかな見事である。青空の青と梯子の対比も一層鮮やかに感じられる。

   小窓より星射落とすやフロイト忌

 「ォ音」の韻の上五・中七から下五「フロイト忌」への転換は、どこか無意識のリピドーを暗示させる句作りに思えなくもない。

青ざめしゴリラの背中は、

   だいこ煮る約束のない日曜日

のように、意外に寂しい色を帯びているのかもしれない。

   マフラー巻く幸せの逃げ出せぬやう

ゴリラの背中

横浜トリエンナーレvol.3

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大井様

人魚です。
紹介とご批評、有り難く嬉しく拝読いたしました。
今後の精進の糧といたします。


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