2011年11月11日

原和子句集『琴板』・・

琴板vol.1

 句集名は、

   琴板を敲き寒夜の神と人       和子

の句から。広辞苑には、琴板は琴占に用いる檜の板。笏で敲いて神霊を迎え、吉凶を占うとあるが、その実際の光景を見なければ、想像するのは難しい。11月23日、出雲大社の新嘗祭神事に由来するらしいが、句集「あとがき」に小泉八雲の『神々の首都』を引用されて説明されているので、孫引きしよう。

  「長さ三フィート、幅十八センチ、高さは四インチだが、中央はちょうど亀の  

 背のようにアーチ形に盛りあがっている。素材は火燧臼と同じく檜で、かた

 わらに細長い棒が二本添えてある。私は初め、型違いの火燧臼かと思っ 

 たが、この箱の正体を一目で見抜ける人は、おそらくいないだろう。これは

 琴板という太古の楽器なのだ」。

 1999年原裕没後は「鹿火屋」の主宰を継承した原和子は、かつて「三代にわたる俳句の家に入って、この絆を私は少しも不自由と感じたことはない」と述べている。その言葉通りに今回の句集『琴板』の詠みぶりも、みずから「わたしの第五句集となる『琴板』は、素朴に、五・七・五の世界に自分を解き放ち、詠みたいものを詠み継いだ」と「あとがき」に記したように、自在な詠みぶりが、麗しく、涼やかである。

   三人の距離の涼しき遠囃子

   太箸の結界海をかがやかす

   どの径をゆくも頂上春遅々と

   淡雪のごと風信の滲みをり

   この国の行方ふつふつ粥柱

   月兎地上の楽に降りて来る

   今ありしことも遙けく零余子飯

   雪見酒天頂に舟浮かべをり

   めくるめく地上の生やみどりさす

   裕忌のはるかな岬をめぐりをり

   中々に出会へぬ人ととろろ汁

   黒揚羽ひかりの網にかかりしか

 最後に上げた黒揚羽の句には、「天網にかからぬ蝶の悴めり」(『天網』)を思い起こさせもする。

  そして、集中、小生の好みで最も好きな句は、

   残照に散るを怺へしさくらかな

である。

琴板vol.2

| コメント(0)

コメントする