2012年2月14日

伊藤希眸『希眸』『三猿』・・・

牡丹園・横尾忠則vol.120214a

 今度、伊藤希眸(いとう・きぼう)第三句集を小社で出版することになった。

原稿を頂いた段階なので、まだ何も決ってはいないが、参考にと考えて第一句集『希眸』、第二句集『三猿』を読んだ。

 句集『希眸』は序文に丸山海道、昭和53年~平成3年までの句が収められている。『三猿』は平成4年~平成13年。師の丸山海道が平成11年4月に帰天しているので、この両句集は、伊藤希眸が文字通り海道膝下にあった時期の句で、師・海道三回忌に捧げられた句集である(序跋はない)。

従って今回の句集は「京鹿子」主宰・豊田都峰に師事してからの句ということになる。

これまでの希眸俳句の骨格の上にさらに年齢を加え、句自体はますます自在になる傾向を示しているのではなかろうか。

師・海道なきあととは言えど、都峰氏の懐は広いのであろう。希眸氏は自由に遊ばせてもらっているのだろう。

その『希眸』の命名は俳号ともども丸山海道が名付けたものである。序文の冒頭は、

    秋櫻はひふへぽんと靴占す          希眸

 の句に触れて、「平成元年の京鹿子大祭俳話において私が賞した句である。昭和六十年頃から、俳句理念として≪遊行≫の理論を唱えて来たが、その中で、『いろは歌留多』や『五十音』のリズムが、一句を遊行させることを説いたものだが、『京鹿子』連衆の実作として可成りの効果を挙げていた。(中略)この言葉には『ぽん』のほかもとより意味はなく、語感(リズム感を含め)だけなので、より一層洗練された資質が感じられる」と称揚している。

小生はいま、海道の唱導した「遊行」論に暗く、その実を明らかにしえないが、方丈記にいう「つれづれなる時は、これを友ととして遊行す」とあるような、歩きながらの自在の句作とでも、勝手に解釈してみた。

 希眸氏の「京鹿子」入門は昭和48年とあるから、第一句集が昭和53年からの句であれば、その習作の5年間の句は潔く、筐底に沈めたか、捨て去ったかであろう。いずれにしてもきっぱり、さっぱりしたものである。それを海道は、雅号とおなじく、「眸も大きく美しく、気性も大らかで爽やかである。遊行俳句にふさわしい人柄と言える」と序を結んいる。

「はひふへぽん」に倣うわけではないが、独特、かつ不思議なオノマトペは希眸俳句の特色にはちがいない。例えば、

   からからと凍て空砕き鶴翔てり        『希眸』

   裏西風のがたんと通る厨子の御簾

   滝氷柱かんりんと折れ母哭かす

   生盆やわあわあ囲む涎姫

   冬の虹かくかくしかと砂の音

   トタン屋根がたんと魑魅過ぎて凍つ

   夢に入るりやうりやうと獅子頭

   梅雨送りからから飢ゑて蛇籠石

   四の五のと寺まで半里梅熟るる

   倒れたる案山子に勲章ほうやれほ     『三猿』

   

 当然ながら、第二句集『三猿』は希眸、一層の句の深さを生み出している。師・海道の三回忌を修し、夫人・丸山佳子への感謝を捧げ、旅立たねばならぬ気息を「あとがき」にしたためる。それが、

    ままならぬ法師賽の目川涸るる

句集名は、次の句による。

   三猿の手に自由なき杉花粉

以下に小生好みの句、佳句を上げておきたい。  

   投地して石とはならず花の蟇       『三猿』

   花桐や妣在るごとく箸揃へ

   水澄んで鮭の零落はじまりぬ

   撃つてでよ陽のあるうちに枯蟷螂

   夢の文字くづし過ぎたる水中り

   鬼籍地を海市とさだめ詩ふなり

   国どこか貧し新米の飯立てり

   晩年の途中の茜煎じゐる

   この手紙妣にとどけむ菊の雨

 さて、期待の第三句集は、自らを恃む以外に道がないようですが、希眸は希望にしかず、これからが楽しみ・・なのである。

駄文を草した。希眸氏許されよ!

牡丹園・横尾忠則vol.120214b

 そう言えば、小生は18から21歳まで3年間、京都に住んだことがある。

 「京鹿子」は、1920(大正9)年、日野草城編集で創刊され、すでに90年以上の歴史がある古い結社だ。愚生が京都にいた当時はまだ鈴鹿野風呂が健在だった。確か、「詩の家」という宿があって(樋本詩葉?)お邪魔したような記憶もある(加茂川端だったような・・・)。

 また、さとう野火、城貴代美等と、村上四明の安養寺というところで句会に出させてもらったような記憶が今、甦ってきた(あれは「南風」山口草堂ゆかりだったかも・・)。貴代美氏はその頃、鷲谷七菜子にぞっこんだったような・・。

 すべては40年も前のことで、記憶はおぼろだ。ふいに、何かの時に思い出すのだが、その記憶も捏造されているかも知れない。あやういものだ。

まちがっていたらごめんなさい。

牡丹園・横尾忠則vol.120214c

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