2012年3月13日

川嶋隆史句集『知音』・・・

句集『知音』

 『知音』は、川嶋隆史氏の『流速』『青山河』に次ぐ第3句集。自序には「傘寿の自祝というより、妻への鎮魂に位置づけたい」とある。前句集『青山河』の古稀の記念から10年の句業がおさめられている。

 跋は酒井弘司氏。句集名は、次の句から・・

    うぶすなの葡萄ひとつぶずつ知       隆史

 両隣の句に、

    祥月命日鷺草の花すべて発つ

    三回忌済みひぐらしの中にいる

    合掌のかたちは解かず秋の蝶

 が置かれているが、いずれも絶唱である。「三回忌」の句は、既出の、

    かなかなはかなかなかなかな妻の忌や

 に、照応しているが、中句「かなかなかなかな」はここに上手く表記できないのは残念だが、「かな」の文字が少しずつ小さくなっている。それは目に入る活字の大きさが小さくなるつれて、声を、遠ざかる声をも聴かせてくれる感じを伴うものである。下五「妻の忌や」におさまることで、なお心情がはかられるのである。

 そういう意味では『知音』一巻は、妻の鎮魂もさることながら、多くの肉親、師、知人、友人への永訣への思いの詰まった句集である。いくつかを抄出する。

   いもうとはもう痛くない合歓の花  (悼 妹・川西弘子)

   三十三才翔ぶ夭折の一羽毛 (悼 姪・岡知美)

   宙(そら)をとぶあまたの中の夏落葉 (悼 兄・川嶋仁志)

   挿してある鎌と遺品の麦藁帽 (悼 義姉・近藤スイ子)

   根の国の便りのように草雲雀 (悼 義姉・大竹キヨ子)

   天翔けよまなうらに棲む緋連雀 (悼 白井房雄)

   冬欅その上に父母待ち給う (悼 妹・岡美智子)

   あかあかと喜八浄土の帰り花 (悼 和知喜八先生)

 そして、東日本大震災では川嶋氏の生まれ故郷・福島いわき市は被災し、もともと社会詠もある作者には、ひとしお辛いものだったと推測できる。

   ふるさとに激震はしるさくら東風

   放射線とぶ日は呆と葱の花

   セシウムと風評揺るる豊の秋

 また、酒井弘司氏の跋文によると、故郷の歌人・天田愚庵の評伝も近く出版の用意をされているという。 

    解けぬ字の愚庵の遺偈冬の虹 

 愚庵は、幕末の武士にして、戊辰戦争を戦い、禅僧となり鉄眼とも号したという。清水次郎長の養子だったこともある人物。

 川嶋氏の愚庵評伝も楽しみだ。

    はらからの忌日つぎつぎ沙羅の花

    花筏妻が紛れておりぬかと

    ちちははと妻がゆらゆら酔芙蓉

    草の実はいそぎつつあり義民の碑

夢座・上野

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