2012年6月12日

福田洽子『星の指輪』・・・

星の指輪vol.1

『星の指輪』は父恋、母恋、夫恋の句集である。

それは、著者が「あとがき」で少し触れていることだが、軍属だった父、それゆえであろうか、戦後に困難な生活を余儀なくされ、「転々とした私には故郷といえるものはありません」と呟かせる。

それでも、父と母は著者を含めた家族とその平安のために働き続けられた。

句集後半には夫を亡くされ、

    春愁やわが従順は夫のため      洽子

    夫のこと彼などと言ひ春酒場

    どこからも夫見ゆる家春障子

などの夫との幸せな時間を、共に過ごされていたと思われる睦まじい句から、一変して、

   夫逝きて地上は暗し松の内

   夫逝きて巣箱あらざる家を継ぐ

   夫逝きて決断ばかり冬至風呂

の句が眼前に現われると、一瞬、息を呑み込む。人生無常とはいえ、切ないものがある。それでも、

    父と夫の瞬き違ふ冬銀河 

の句にたどり着くと、書名の「星の指輪」のあり様が、父と夫の星の舜きに思いを託されていることを感触として感じることができる。 

 また、さすがに大牧広死の「港」で学ばれただけあって、社会的な眼差しを感じさせる句も多く収載されている。いくつかを紹介すると、

    原発悪に迂闊でありし夏あざみ

    脱穀の音や不戦を決めし国

    母の日や戦忌む母ふえて欲し

    軍隊を思はすコート遠ざけし

    子等の出兵ふと恐れたり礒祭

いずれの句も、今、住んでいる国自身が問われている問題ばかりだ。

ともあれ、巻頭の句、

    舌打ちのやうに歌いぬ揚雲雀

いかにも、そのように思われるが、一句が「舌打ちのやうに」の措辞で、全体が比喩的にも読め、いささか深読みを誘われる。秀句たるゆえんだろう。

6月の花vol.1

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