2012年10月19日

溝口直『大都会』・溝口博子『ムーミン村』・・・

『大都会』と『ムーミン村』

 溝口博子『ムーミン村』は、絵本仕立ての句集である。

 従って、各ページには絵が描かれている。

    青空を独り占めしてねこじゃらし    博子

    福耳が自慢の亡父のちゃんちゃんこ

    水の上ばかり見ている金魚かな

 作者・溝口博子は溝口直の妻であり、「74歳で食道癌が見つかり、大手術を行ったが、その一年後他界した」とあり、自らの絵本句集を手にすることなく急逝された。

 夫の溝口直の句集『大都会』は、テーマ別に編集された句集で、サイズも文庫本、手にとって読むには手ごろだ。そのテーマ別の「妻」の章に、妻の闘病を詠んだ句も収められている。

    土筆摘む昼餉は卵とぢならん      直

    着膨れてますます母に似てきたる

    妻病んで病院食の冷奴

 直氏の父も俳人で溝口紫浪(明治29年生、92歳で没)、産婦人科というのも同じ、つまり直氏は、俳句も仕事も父の後を歩いてきたというわけだ。

 この句集を開巻してすぐ、父と息子の句が対句で併載されている。

 うらやましい限りだ。

    子を思ふ心冬日のやはらかく      紫浪

    父思ふ日のぬくもりや日脚のぶ     直

 仕事の句もある。

    ミレミアム・ベビー生まれて初明かり

    今日よりは秋の山行く検診車

 カメラの苦手な直氏は、替わりに俳句を詠んだ。学会でマドリッドに行き、そこで句作が始まったという。

 趣味も多彩だが、映画に関しては俳人協会の「俳句文学館」に「銀幕の季語」たちというエッセイも連載されている。

    欲望といふ名の電車夏果つる

    夏場所や返り咲きたる寺尾関   

 猫も飼われている。

    大根の花に埋もれて猫の墓

 テーマ「時代」には世相も反映されいる。

    放射線洩れて無残や春野菜

    長崎は坂多き街原爆忌

 さしずめ、句集名は、次の句からであろうか。

    春泥もある新宿といふ大都会

 旅の句もある。

    夏の灯やどこの国にもコカコーラ

 多彩な句、多彩な人生も「心」を最終章に置いているのは、この二冊のおしどり句集の心根を表しているように思える。

    水澄みてをれば心も澄みてをり

    星流れ星に占ふことばかり

    人愛せ人の子愛せ良寛忌  

花水木の実vol.1

花水木の実↑

| コメント(0)

コメントする