2012年10月30日

伊藤希眸句集『歳旦』・・・

句集『歳旦』

 『歳旦』は、『希眸』『三猿』に続く伊藤希眸の第三句集である。

 序文は現在の師、豊田都峰(「京鹿子」主宰)。

 伊藤希眸は、昭和48年「京鹿子」に入会し、先代の丸山海道に師事してから「京鹿子」一筋、40年近い歳月を閲したことになる。

 いわば、その集大成としての第三句集であるが、その句風は、丸山海道が「遊行性は、どうやら作者の資質」(「希眸」序文)と記した道を、ますます遊行の趣を加えながら、自在な表現の域に至っているのではなかろうか。

 巻頭の句は、句集名ともなった、

    歳旦の飛翼の削るあかね雲       希眸

 遊行とは、情念を隠しているものかも知れない。

    息止めて雪庇くぐりぬ火を恋ひぬ  

    乱心か愉悦か蛇は衣を脱ぐ

 また、「自由奔放に遊行の世界に遊んで見せる」(同前)には、

    月へ行く土産(つと)は手乗りの白うさぎ  

    大花野つばさだんだん欲しくなり 

    韋駄天に加速つきたり山に雪

    身幅には嵌らぬ齢晩白柚(ばんぺいゆ)

    万国に太陽ひとつ青葉冷え

    大根の白さと重さ叩きけり

 もちろん、格調の髙く、句姿の整った句もある。

    山風の父と打ちあふ大氷柱

    凍て瀧の凍つる声聞く瀧のまへ

    凍て瀧は天空ささへゐて寡黙

    天空へ穴あけてゆく鷹柱

    御題は「笑み」倭の寒のやはらげり

    塩竈ざくら神はいくつも名を持てり

 あるいはまた、伊藤希眸自身が覗き見る光景というものも、おのずから句に現れているものもある。

 それは、ふと振り返る景であったり、歩いている途中の景であったり、少し人間的な瞬間を垣間見せたりもする。

   妣と母寒露の門で行き違ふ

   消されたい霧に消されずまた歩く 

   鹿の影いまは雪崩の外にゐる

   乗込鮒天地返しの水けむり

   藪に雪ばさりと落ちる日のひかり

   増の眼の奥に人の目紅葉冷ゆ

  「増の眼」の増とは、田楽能の能面で、増阿弥の気品ある女面のこと。

 いずれも「優れた感覚や詩情への傾斜の澄明度が卓抜した資質を見せてくれる」(同前)のである。

  最後に、既刊の第一、第二句集から代表句を引いておきたい。

   秋櫻はひふへぽんと靴占す        『希眸』

   三猿の手に自由なき杉花粉        『三猿』

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