仲寒蝉「大牧広の海と空」・・・
贈られてきた「里」8月号に、本誌に「俳句・その地平」を連載中の大牧広氏の作家論が仲寒蝉氏によって執筆されている。原稿用紙にすると20枚(400字詰)ほどの力作である。
「探花聞香(たんかもんこう)」シリーズの第4回目、リレー連載書き下ろし作家論である。
これまでも前登志夫、目迫秩父、齋藤玄と、なかなか渋い、しかし見逃せない作家のラインナップで進められてきている。
仲寒蝉氏は、大牧広主宰「港」所属だから、なかなか書きにくいところもあっただろうと思う。
誉めてよく書けば、所詮先生のことを悪く書くわけにはいかないから・・とつまらない陰口もきかれるのがオチというもので、むしろ、寒蝉氏の冷静に客観的に書こうととする筆致が労しい。
大牧広の第一句集『父寂び』から第七句集『大森海岸』を通覧して、そのキーを「海」と「空」に集約し、句の成果と今後の句境について筆を運んでいる。結論は次のように結ばれている。
大牧広の句風は『父寂び』の頃の「暗さ」を『午後』以来の『明るさ』が凌駕しつつある。過去を志向
し晩年を意識した『大森海岸』においてもその傾向は衰えないのである。
ともあれ、大牧広論については、直接お読みになって、堪能していただければいい。少しばかり、論文に引用された句を挙げておこう。
まつすぐなものを見飽きて懐手 広 『父寂び』
はづかしきほど明るくて冬の海
春の海まつすぐ行けば見える筈 『午後』
懐手解くべし海は真青なり
凧上がる平らな海を信ずべし
こんなにもさびしいと知る立泳ぎ 『某日』
海のなき県暮れてゆく旧端午 『昭和一桁』
海峡は昭和の景や青すだれ 『風の突堤』
ヨットレースの海に眠りし特攻機 『冬の駅』
虹立ちし大森海岸逝く地なり 『大森海岸』
三月十一日以降の海を信じない
そして、医師である仲寒蝉は、『平成秀句選集』に次のようにきしている。
「医俳同源」、俳句と医療はいずれも命をいつくしむという点において会い通ずる。
一所懸命に生きるということを軽んずる行為や権力は俳の精神の敵だ。医療で人の命が救えるよ
うに俳句でこの地球が救えればいいのにと心から願う。
気がつけば頭上に国家雪催ひ 寒蝉
さて、今日の編集部は、新年号の印刷所入稿2日目である。
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