2013年2月15日

岡正実句集『風に人に』・・・

風に人にvol.1

 句集名は次の句からのもの。

    風に人に帰巣本能ヨットの帆      正実

 著者は言う。「テーマとした『帰郷』にもっとも重なると思い、選んでみた」と。

 略歴によると1944年、福井県に生まれ、68年時事通信社に入社し記者、解説委員を経て2004年退社。

 第一句集『奥羽の時代』(2006年)に次ぐ第二句集が『風に人に』である。

 巻頭近くの句は、第一句集から漏れた、俳句入門時代のものらしいが、

 はっきりとは示されていないものの、次の句などは味わい深い。

     線香花火はげますゆるく息かけて

     結願の数の穴ある蝉しぐれ

 「線香花火」の句の中七下五「はげますゆるく息かけて」のフレーズには実感とともに、作者の願い、祈りも、そして、いささかの哀れをも感じさせられる。

 「結願の数の穴」も達成された至福と地上での命短い蝉の哀れが「蝉しぐれ」に含まれているのではなかろうか。

     村夫然たる顔に剃刀今朝の秋

    子規の忌や3B鉛筆(さんびー)持てば記者の顔    

都会生活から帰郷しての生活、記者の顔ではなく、村夫然としてきた自分の表情に少しばかりの感慨がもたらされた。折からの秋めいた朝。また、3Bの鉛筆を手すると、昔の記者の顔に戻っているような気も、ふと、する。そういえば、子規にも記者が時代あった・・・。

 記者生活時代には、社会に対するいくばくか批評の眼差しをかかえていたにちがいない。次の句などにはそうした気配がある。

    鬱々と原発海は雪催

    カタカナガハビコルニッポンハイセンビ

    「安全神話」といふ神輿担ぎし一人やも

    「一丸」が好きな日本の遠蛙

また、切ない自画像めいたものもある。

    手を組まれわれも逝くなん冬の月

    滝垢離や震へを挟む両腕

    降る雪やおとなく人は老いゆける

 これからの著者の句業はさらに晩年の気配を濃くしていくのだろうか。それとも潮の結晶(つぶ)を輝かせるエネルギーを句境にいっそう加えられるのであろうか。そこには未知の期待がある。

  最後に私好みの佳吟を挙げて置きたい。

   緑陰をかげ出て人となりにけり

   北陸(ほくろく)は二タ色雪と雪雲と

   棹に空きありはぐれたる雁待つか

カラタチ↓

立春の山茶花vol.1

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