2013年6月13日

城取信平句集『めでためでた』・・

句集『めでためでた』

 句集名は、次の句から。

    めでためでたと枯野の電話混乱す   信平

「あとがき」には、

   この句集には、平成十二年から二十四年までの三〇四句が納められてお  

 りす。昭和六十年に『短日』を、平成十二年に『青榧』を出しておりますので

 三冊目になります。(中略)これが私の七十歳代の生き様であったと手を合わ

 せました。(中略)

  また多くの仲間の身罷りに遭ってきましたが、『めでためでた』とした題名

 は、八十歳を越えた己の今の生き様です。

 とあり、「めでためでた」と言いながら、いささか別種の趣が隠されているように思える。

あたかも「めでたくなる」という「死ぬ」「倒れる」の忌み言葉の覚悟が心底に流れていはしまいか。

 集中には、仲間の句集上梓の祝句もさることながら、はるかに多い追悼句が収められている。悲しみと孤独はいやまさると言ってもいいだろうか。八十歳を越えた己の生き様とはそういうことなのである。

その数多くの追悼句を以下に紹介したい。

         悼 高氏青堂さん

     白梅のさがし得ず君亡き後

         悼 重盛友子さん

     かなしめば淡雪のまた降り急ぐ

         悼 関森関洲さん

     裸木の梢野の鳥声なさず

         悼 木俣三洲子さん

     花吹雪やみたるときのはるかな天

         悼 村上葡泉さん

     こおろぎのなぜか今年は日中鳴く

         悼 木下棹雄さん

      春寒の炬燵ぽつんとあるばかり

         悼 赤羽けさ子さん

      山吹のひと筋の道消えて嗚呼

         悼 葛岡雄司さん

      いのち二つあればと憶新樹の夜

         悼 丸山喜(七が三つの文字)美さん

       在りし日を綴ればさくら山に散る

         悼 塩沢紫翠さん

       笹鳴きの黄泉いかほどに寒からん

         悼 大西紀代子さん

       さみだれのごときひと世のほととぎす

         悼 山本竜雄さん

       咲き継ぐをふと止めて散る百日紅

         悼 田中白陽さん

       雁去りしあとの水際さびしかり

         悼 小林千文さん

       白花の秋明菊は散るはやき

         悼 畑中美芳さん

       郭公の木曾へお帰り軍馬連れ

         悼 清水偉久夫さん

       郭公に耳目の自由得られませ

         悼 中山和雪さん

       入野谷の二月むなしや月の天

         悼 小林正峰さん

       あじさいのつゆどきにまた逢わんかな

         悼 若山芳子さん

       山茶花の一花となりし紅かなし

          悼 伊沢タキさん

       かなしみの盃伏せり淡雪に

          弟藤平の死

       なきがらをそばに涼しき夜の明け

          悼 平出比呂夫さん

       比呂夫亡き日やひぐらしの森はるか

          悼 千曲山人・小林洸人両氏

       朝も夜も二人木槿にかくれんぼ

       棗の実山人亡き後赤銅色

          兄丈雪の死

       雪の田に足跡しるき君の死後

      

それは、まさに、

     死の嵩に八十余年のおぼろ積む

であり、平成十三年の最初の句、

    妣を負い最前列に初日待つ       

の「妣」にこそ、亡き母のまぼろしを負って初日の出の最も近くで拝もうとする作者の姿がある。

 あるいは、昭和一桁生まれの作者には、戦争の句も多く、それはいまもなお胸中深く沈澱している思考を思わせるものだ。

     昼寝あと白紙に映る戦死人 

     夏の城黒くあらわれ被爆日本

     潰されし防空壕も枯れ急ぐ

     戦没者机上に枯葉並べゆく

それにしても母恋の句に残る抒情もまた、この世の摂理を感じさせるに十分ではなかろうか。

     春はるか裸足の吾を母産みし

     母偲び泣く声なればおぼろ濃き

 城取信平氏は昭和5年伊那に生まれ、金尾梅の門「季節」に師事されたこともある。

その梅の門について山本健吉は「この作家の特色は こまやかで滲み出るようなリリシズムだ」(『現代俳句』)と述べていたが、城取氏もまたその血が流れていよう。

レンゲ↓

レンゲvol.2

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