2013年6月20日

渡辺をさむ句集『あらくさ』・・・

句集『あらくさ』

 句集名は次の句から、

    九条手書きの凧碧天へ雑草(あらくさ)    をさむ

諸角せつ子が懇切な序を寄せているが、それには、

   渡辺さんは、「反戦・平和」が私の人生の大きなテーマと言い切っている。 

 五十歳を過ぎてからの俳句作りだが、志とかかわって、どこまでも未来を感じ

 させる明るさ、その深まりが読むものの心を優しくしてくれるのである。もとも

 と俳句は庶民の詩、平明で清新でありたいもの、現代をどう切りとって詠むの

 かは、ひとえに作者の志とかかわってのもの、渡辺さんの一句一句には、そ 

 んな太穂の優しい志が受け継がれているように思え、ことさら親しみを感じる

 のである。

と記されている。また僧職にあった渡辺をさむは本名「大修(だいしゅう)」での樹木葬の墓苑を開設運営されているとのことだ。

さて、冒頭に挙げた句だが、雑草派とは自らのことであろうし、また、戦前のプロレタリア俳句運動の記念碑的作品「シャツ雑草にぶつかけておく」の栗林一石路を意識したものであろう。一石路の忌日は「雑草忌」とも呼ばれている。

作者は、1945年鳥取県生まれだが、高校三年生にして原水爆禁止世界大会、平和行進に参加し、その後は寺の住職と民主商工会の職員を兼務していたというから、いわば筋金入りの活動家のような生活ではなかったろうか。

従って、社会の不正に対するときの作者の眼差しの厳しさが、おのずと句の表現に湧き出している。

なかには、名指しされなくてもそれと分かる句もある。例えば、

    浪速ファシスト昭和の冬の紐たぐる

 「浪速ファシスト」とはたぶん橋本大阪市長のことであろう。第二次大戦前、ヒットラーは選挙のたびに議席を培培ゲームのように増やし、文字通りドイツ国民の圧倒的な支持を背景に登場してきたことは歴史上の事実である。その熱狂的な支持に対して作者は危惧しているのである。それが「昭和の冬の紐たぐる」の措辞になっていよう。間違ったナショナリズムは道を誤るのだ。

しかし、こうした社会派の作品のみが収載されているわけではない。本句集巻尾には、

     父似の三兄にこの句集を贈る

   兄癒えよ故郷(さと)は若葉のあふるるに

と捧げられ、また、

   父の日よ戦嫌いの血筋です

   華帯の三線しぐれ冬の太陽(ティダ)

   痴呆の母が日向にほぐれ冬紅葉

   裸にキッス励まし上手の介護妻

   うすら陽のその揺れ透いてえごの花

   少年老いて帰らぬ声を畑に鋤く

など、叙情的な愛に裏打ちされた句の表情を伺うことができる。

また、現代的な新しい表現をもたらしている次のような句もある。

   春♪(おんぷ)スマートフォンの指先に

ともあれ、最後にいかにも作者・渡辺をさむらしい、志あざやかな句を挙げておきたい。

   雁や抑留兄の遺品なし

   サシバ伝えよ軍「慰安婦」の埋る声

   無窮花(ムグンファ)の陽を抱くかに連行碑

   百日紅特攻遺書の乱れ文字

   みちのくの日筋に帯の花菫

   古雛その瞳幾たび地震・戦

   秋冷の灯へ懸命の資金繰り

   原発ゼロへ色とりどりの夏帽子

とりわけ、最後の原発の句には、古沢太穂の「白蓮白シャツ彼我ひるがえり内灘へ」の句が想起させられても不思議ではなかろう。 

アジサイ↓

アジサイvol.6

閑話休題・・

本日の編集長・林は「俳句界NOW」轡田幸子の撮影で橋本照嵩と出かけている。 

ノウゼンカズラ↓

ノウゼンカズラ

| コメント(1)

コメント(1)

  

 過分な書評に感謝します。
 ありがとうございました。

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